環境分析・現状把握とは
マーケティング戦略を構築するうえで最初に行うべきステップが「環境分析・現状把握」です。これは、自社を取り巻くビジネス環境を多角的に調査し、組織が置かれている状況を正しく把握するためのプロセスを指します。マーケティング戦略の成功可否を左右する重要なステップであり、ここが曖昧であると後続のマーケティングプランや施策の方向性がブレてしまいます。
本記事では、環境分析・現状把握の重要性や、代表的な分析手法、おさえておきたいポイントなどを体系的かつわかりやすく解説します。
なぜ環境分析・現状把握が重要なのか
1. 市場環境の変化への対応
ビジネスを取り巻く環境は常に変化しています。消費者の嗜好変化や新技術の登場、景気動向などに伴い、市場の構造や競合環境も刻一刻と変わります。
環境分析・現状把握を行うことで、変化の兆しに気づくことができ、いち早く対応策を検討するきっかけになります。
2. 自社の強み・弱みの再確認
環境分析には、自社内部のリソースや業務プロセスの棚卸しも含まれます。自社の強み・弱みを客観的に評価し、改善すべき点や活かすべき資源を明確にすることで、後続の施策設計をより効果的に行えます。
3. 戦略策定の方向性を決定
環境分析・現状把握によって導き出された洞察から、企業が取り得る戦略の選択肢を絞り込むことが可能になります。リスク回避や新たなチャンス発掘のための施策検討にも不可欠です。
環境分析の代表的なフレームワーク
1. PEST分析(マクロ環境分析)
PEST分析 は、以下4つの観点からマクロ環境を分析するフレームワークです。
- Political(政治的要因): 政府の規制や法律、政策など
- Economic(経済的要因): 景気動向、為替、金利、失業率、可処分所得など
- Social(社会的要因): 消費者の価値観、ライフスタイル、人口動態、流行など
- Technological(技術的要因): 新技術の登場や研究開発の進歩、インフラ整備状況など
PEST分析により、企業が直接コントロールしにくい外部環境の要素を整理して理解することができます。政治的要因では法改正による影響を把握し、経済的要因では景気後退局面での消費動向に着目する、といった形で企業の立ち位置を確認できます。
PESTEL, STEEP, STEEPLE
マクロ環境分析の手法としては、PESTに Legal(法的要因) や Environmental(環境要因) を加えた派生フレームワークもあり、業界や企業の状況に合わせて選択・カスタマイズして利用することが一般的です。
2. 3C分析(自社・顧客・競合)
3C分析 は、以下3要素から企業を取り巻く環境を多角的に把握するためのフレームワークです。
- Company(自社): 自社の強み・弱み、経営資源、技術力など
- Customer(顧客): ターゲット市場の顧客ニーズ、購買行動、消費者インサイトなど
- Competitor(競合): 競合他社のシェア、製品・サービス、価格、プロモーション戦略など
3C分析を行うことで、自社がどのような付加価値を提供すべきか、競合に対してどの領域で優位性を築けるか、ターゲット顧客はどのような課題を抱えているかを整理しやすくなります。
3. ファイブフォース分析
ファイブフォース分析 は、マイケル・ポーターが提唱した「競争戦略論」に基づく分析手法で、業界の収益性や競争要因を以下5つの視点から分析します。
- 既存企業間の敵対関係
- 新規参入の脅威
- 代替品・代替サービスの脅威
- 仕入先の交渉力
- 販売先(買い手)の交渉力
特定の業界がどの程度参入障壁が高いか、あるいは競合がひしめいているのかなど、市場構造を理解するうえで有用です。自社が参入を検討している業界や、既存事業の競争力を再評価する際に活用されます。
4. SWOT分析
SWOT分析 は、自社の Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、外部環境の Opportunities(機会)、Threats(脅威) を一覧化して俯瞰する手法です。
SWOT分析を行うことで、自社が持っている強みを生かして市場機会を獲得する「攻めどころ」や、脅威に対して弱みをどのように克服すべきか、戦略的な示唆を得ることができます。
環境分析・現状把握で押さえるべきポイント
1. データ収集と情報源の幅広さ
環境分析には、定量・定性の両面から多角的な情報を集める必要があります。
- 定量データの例: 市場規模、各社の売上・シェア、購買件数、顧客満足度調査結果など
- 定性データの例: 消費者の声(SNSや口コミ)、業界アナリストのレポート、顧客インタビューなど
一次情報(自社が直接取得する調査データ)と二次情報(公的統計、公開レポート、業界ニュースなど)を組み合わせて客観性を高めましょう。
2. 分析結果の解釈と優先度
データを集めただけでは、意味のある示唆は得られません。重要なのは結果をどのように解釈し、自社の戦略に落とし込むかです。
大量の情報を扱う場合でも、経営判断に影響を及ぼす要素や市場のインパクトが大きい要因に優先度をつけ、最も深掘りすべきポイントを見極めることが必要です。
3. 競合他社の実態・成功要因の把握
競合分析では、単に競合の売上やシェアを調べるだけでなく、競合他社のビジネスモデルやマーケティング施策の成功要因 を探ることが大切です。
顧客が競合の製品・サービスを選ぶ理由を突き止め、自社との差別化の方向性を見出すことで、自社が顧客価値を高めるための施策を立案しやすくなります。
4. ターゲット顧客像の具体化(ペルソナ設定)
自社の顧客層を明確に定義し、代表的な顧客像(ペルソナ)を設定することも現状把握の重要な一環です。ペルソナを具体的に描くことで、ニーズや購買プロセス、行動特性を理解しやすくなり、マーケティングミックス(4P:製品・価格・流通・プロモーション)の最適化やカスタマージャーニーの設計を行いやすくなります。
5. 継続的なモニタリング
環境分析・現状把握は一度行って終わりではありません。市場は刻々と変化するため、継続的なモニタリングが欠かせません。定期的に分析を更新することで、競合動向や顧客ニーズの変化を素早くとらえ、施策の修正や新たな機会創出を図ります。
環境分析・現状把握を成功させるためのヒント
- 目的を明確に設定する
ただ闇雲に情報収集をしても、分析が散漫になりがちです。市場参入の可否判断、既存製品のリニューアル方針決定など、目的を明確にしたうえで必要な情報をピンポイントに集めることが重要です。 - ステークホルダーとの連携
分析結果を実際の施策に落とし込むには、社内外のステークホルダーとの意見交換が不可欠です。営業部門や開発部門、さらにはパートナー企業・代理店などと連携し、多面的な視点を取り入れましょう。 - 数値だけではなく、定性的情報も重視
マーケットシェアや売上推移のような数値データは重要ですが、消費者のインサイトや競合他社のブランドイメージのような定性的情報も見落とせません。両者をバランスよく評価・分析することで、より適切な意思決定につながります。 - 客観性の確保と検証
自社が持つバイアスを排除し、客観的な視点で分析することが大切です。統計データや外部調査機関のレポートなど、第三者情報と付き合わせて検証しつつ自社にとってのインサイトを抽出しましょう。 - 分析フレームワークの組み合わせ
PEST分析、3C分析、SWOT分析、ファイブフォース分析など、単一のフレームワークでは見えてこない側面もあります。
複数のフレームワークを補完的に活用し、総合的に情報を整理することで、より包括的な視点を得られます。
総括
環境分析・現状把握は、マーケティング戦略の礎となる極めて重要なプロセスです。外部環境(マクロ・ミクロ両面)と自社の内部環境を的確に把握することで、ビジネスチャンスと潜在リスクを見定め、より戦略的な打ち手を検討できます。
市場の動向は常に変化しているため、環境分析は単発で終わらせずに継続的に実施し、最新情報を取り込む姿勢が欠かせません。こうした継続的なモニタリングと柔軟な戦略修正を実行することで、マーケティング活動を着実に成果へと導けるでしょう。