マーケティング理論のフレームワーク
はじめに
マーケティングとは「顧客に価値を提供し、満足してもらうことでビジネスを成長させる活動」です。日々新たな手法や分析ツールが登場し、その範囲は従来の広告・販売促進だけでなく、デジタルマーケティングやSNS活用、ブランディング戦略など多岐にわたります。そのため「マーケティングは難しそう」「学びたいけどどこから手をつければいいかわからない」という声をよく耳にします。
しかしマーケティングにおいて重要な基礎となる理論やフレームワークは、実は明確かつ体系的に整理されています。今回は、マーケティングにおける基本的なフレームワークをまとめてご紹介します。これらを理解しておくと、マーケティング施策を考える際に「どこから手をつけるべきか」「どういう観点で分析するべきか」が見えやすくなります。ぜひ最後までお読みいただき、今後のマーケティング活動に活かしていただければ幸いです。
マーケティング戦略立案の大枠
一般的に、マーケティング戦略立案の大まかな流れは下記のように整理できます。
- 環境分析・現状把握
┗ マーケット(市場)や競合、消費者の状況を分析し、強み・弱みを把握 - 顧客視点の設定(STP)
┗ Segmentation(市場の細分化)
┗ Targeting(ターゲット選定)
┗ Positioning(自社の提供価値を明確化) - マーケティング施策の立案(マーケティングミックス)
┗ 4P / 4C / 7Pなどのフレームワークを活用して施策を検討 - 実行・検証・改善
┗ PDCAサイクルを回し、目標を達成するまで施策を最適化
この大枠を頭に入れておくと、「まずは市場と顧客を理解し、ターゲットを絞り、どのようにアプローチするかを考える」という基本的な流れが見えてきます。では、実際に活用する具体的なフレームワークを見ていきましょう。
1. 環境分析で活用される代表的なフレームワーク
1-1. SWOT分析
SWOT分析は、以下の4つの観点で自社や製品・サービスを取り巻く状況を整理する手法です。
- S(Strengths)強み
- W(Weaknesses)弱み
- O(Opportunities)機会
- T(Threats)脅威
「内部環境(自社の強み・弱み)」と「外部環境(市場の機会・脅威)」を総合的に考慮し、どのような戦略を取るべきかを導き出します。たとえば、自社の強みを活かして市場の機会を捉える「SO戦略」や、市場の脅威への対抗策として自社の強みをどのように活用できるかなどを検討します。
どんなときに使われる?
- 新規事業や新規プロジェクトを立ち上げる前に、取り巻く状況を整理したいとき
- 競合他社が増えてきた、あるいは市場のトレンドが変化しつつあるとき
- マーケティング施策を検討する前に、まずは自社の立ち位置を確認したいとき
1-2. PEST分析
PEST分析は、マクロ環境(政治・経済・社会・技術)を外部要因として整理し、ビジネスへの影響を見極める手法です。
- P(Politics)政治的要因
- E(Economy)経済的要因
- S(Society)社会的要因
- T(Technology)技術的要因
製品やサービスが広く世の中に浸透するためには、これらの要因に大きく左右されます。たとえば、スマートフォンの普及(技術的要因)や消費増税(政治的要因)などが、市場や購買行動にどのような影響を与えるのか、あらかじめ把握しておくと戦略立案がスムーズになります。
どんなときに使われる?
- グローバル市場への参入を検討する場合
- 政策の変更によってビジネス環境が変化しそうな場合
- 社会の価値観や消費行動が大きく変わりそうな兆しがある場合
2. 顧客視点を定義する「STP分析」
STPとは、下記3つのプロセスを意味します。
- Segmentation(セグメンテーション)
市場を年齢・性別・地域・ライフスタイルなどの切り口で細分化し、グルーピングする作業。 - Targeting(ターゲティング)
細分化されたセグメントのうち、もっとも自社の強みが活きる/収益に貢献する可能性が高いセグメントを選定。 - Positioning(ポジショニング)
選定したターゲットに対して、自社が「どんな価値」を「どのように提供するか」を明確にする。競合との差別化ポイントをはっきりさせる。
たとえば新しい栄養ドリンクを販売する際、「健康意識の高い20〜30代のビジネスパーソン」に焦点を当てるのか、「体力的に衰えを感じ始めたシニア層」に焦点を当てるのかで打ち出すメッセージやプロモーションの方法は大きく変わります。STPが明確であればあるほど、効果的なマーケティング施策を展開しやすくなります。
3. マーケティングミックスの基本「4P / 4C / 7P」
3-1. 4P分析
マーケティングと聞くと、まず最初に頭に浮かぶフレームワークが「4P」です。
4Pとは下記の4つの要素を指します。
- Product(製品・サービス)
お客様に提供する「製品・サービスの内容」。機能、品質、デザイン、ブランドなどもここに含まれます。 - Price(価格)
製品やサービスの価格設定。値引き戦略やサブスクモデルなどの価格形態も含めます。 - Place(流通)
顧客に提供する経路。ECサイトや店舗、チャネル戦略、物流など。 - Promotion(プロモーション)
製品やサービスを認知・購入してもらうためのコミュニケーション活動。広告、SNS、イベントなどが代表例。
「いかに良い製品・サービスを作っても、それを売る仕組みや価格設定、宣伝手段が整っていなければ成果に繋がらない」という考えに基づくのが4Pです。マーケティング戦略を構築するうえで、バランスよく考慮すべき基本視点として非常に重要です。
3-2. 4C分析
4Pの視点をより「顧客中心」に捉え直したのが「4C」です。各要素の名称は諸説ありますが、代表的には以下のように整理できます。
- Customer Value(顧客価値)
自社製品が顧客にどのような価値をもたらすのか - Cost(顧客が支払うコスト)
価格だけでなく、購入までの時間、手間なども含めた「総コスト」 - Convenience(利便性)
顧客が購入・利用する際にどれだけ手間なくスムーズに使えるか - Communication(コミュニケーション)
双方向のやりとり。SNSやユーザーコミュニティ、チャットサポートなど
4Pが企業側の視点で語られるのに対し、4Cは常に「顧客がどう考えるか」を意識するという点で特徴があります。デジタルマーケティングが発達した現代では、カスタマーエクスペリエンス(CX)重視の考え方がますます重要視されるため、4Cの視点をベースに戦略を立てる企業が増えています。
3-3. 7P分析
サービス業など、人の対応や顧客との接点がより重要になる業種では「7P」が使われることがあります。4Pに加え、以下の3要素を意識します。
- People(人)
顧客と直接やりとりをするスタッフ、従業員の質・教育・モチベーション - Process(プロセス)
サービス提供までの手順やオペレーション。顧客に安心・満足してもらうプロセス設計 - Physical Evidence(物的証拠)
接客を行う場所や雰囲気、空間デザイン、Webサイトのデザイン、パンフレットなど、顧客体験を左右する「目に見える要素」
特に飲食店やホテル、病院、コールセンターなど、人がサービスを直接提供するビジネスでは、従業員の質や運用体制がお客様の満足度に大きく影響します。そこで4Pに加え、「人・プロセス・物的証拠」の視点を取り入れるのです。
4. 購買行動を理解する「購買ファネル」と「カスタマージャーニー」
4-1. 購買ファネル(マーケティングファネル)
多くの場合、顧客は製品やサービスを知り、興味を持ち、比較検討し、最終的に購入するというプロセスをたどります。この流れを「ファネル(漏斗=じょうご)」に見立てて表したのが「購買ファネル」です。たとえば、AIDMA(アイドマ)やAISAS(アイサス)などのモデルがあります。
- AIDMA
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
- AISAS
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Search(検索)
- Action(行動)
- Share(共有)
デジタル時代においては「検索」や「共有」が購買行動に大きく影響を与えます。SNSで口コミを確認したり、検索エンジンで比較検討して他社商品と比較するなど、消費者の行動がより複雑化しているため、それを前提としたファネル設計が求められます。
4-2. カスタマージャーニー
購買ファネルが主に「認知から購入までの行動」を俯瞰したモデルであるのに対し、「カスタマージャーニー」は顧客が製品・サービスに触れ、興味を持ち、購入し、継続利用、さらには口コミやリピートに至るまでの「一連のプロセスと感情の変化」を時系列で可視化するものです。
- 例:
- 友人からSNSでおすすめされる(認知)
- 興味を持ち、公式サイトを訪問して口コミをチェック(検索)
- 比較サイトで他社サービスと比較(検討)
- キャンペーンを見つけて購入(行動)
- 実際に使ってみて満足、SNSで感想を共有(共有)
- 継続的に利用し、友人にも勧める(ファン化)
上記のように、顧客がどのタイミングでどのような体験をしているか、どんな感情が生まれるのかを細かく把握し、各タッチポイントで最適な情報やサポートを提供することで、満足度を高めることができます。
5. 実行・検証・改善のフレームワーク
5-1. PDCAサイクル
マーケティング戦略は立てっぱなしではなく、実行し、検証し、改善していく必要があります。その流れをシンプルに表したのが「PDCAサイクル」です。
- Plan(計画)
目標や施策をプランニングする - Do(実行)
実行に移す - Check(検証)
施策の成果や数字をチェックする - Act(改善)
改善点を洗い出し、次の施策に反映する
このサイクルを回し続けることで、マーケティングの精度が高まります。「一度やってみてうまくいかなかったから終わり」ではなく、原因を分析して再チャレンジするというプロセスを踏みましょう。
5-2. KPI・KGIの設定
施策の実行・検証を効果的に行うためには、適切な指標を設定し、定点観測することが欠かせません。そこで重要なのが「KPI(重要業績評価指標)」と「KGI(重要目標達成指標)」です。
- KGI(Key Goal Indicator)
最終的に達成したいゴールを数値化した指標。売上や利益率など、企業全体の経営目標に直結するもの。 - KPI(Key Performance Indicator)
KGIに到達するためのプロセスを測る指標。Webサイトのコンバージョン率、リード獲得数、SNSのエンゲージメント率などが代表例。
たとえば「年内に売上1億円を達成する」というKGIを設定した場合、そのために「リードを月間1,000件獲得する」とか「SNSでのフォロワー増加率を20%アップさせる」など、KPIを段階的に設定してモニタリングしていくのです。こうすることで、具体的にどこがボトルネックになっているのかを把握しやすくなり、PDCAサイクルを正しく回せるようになります。
まとめ:基礎フレームワークを理解し、実践へ!
今回ご紹介した基本フレームワークは、マーケティングを考えるうえで欠かせない視点を体系的に示してくれるものばかりです。
- SWOT/PESTで市場と自社を俯瞰する
- STPで狙うべきターゲットと差別化ポイントを明確にする
- 4P / 4C / 7Pで施策を具体化する
- 購買ファネルやカスタマージャーニーで顧客の行動と感情の変化を把握する
- PDCAサイクルで継続的に改善して成果を高める
マーケティングにはさまざまな手法や理論があり、一見複雑に見えますが、基本フレームワークを軸に考えれば道筋はクリアになります。まずは自社(または自分)の事業に当てはめて、どのステップでどんな施策を打てるか、紙に書き出してみたり、チームでディスカッションしてみることをおすすめします。
次のステップへ
- 具体的な事例を学ぶ
他社の成功事例や失敗事例を参照すると、自分たちのプロジェクトにどう応用できるかイメージが広がります。 - データ分析に取り組む
デジタルマーケティングでは、Web解析ツールやSNSのインサイトなどで多くのデータを取得できます。これらを活用しながら仮説検証を繰り返すことで、より精度の高い戦略立案が可能になります。 - 社内外とのコミュニケーション強化
マーケティングは一人では完結できません。製品開発部門や営業部門、代理店や広告パートナーなどと連携しながら、顧客に価値を提供するための施策を一貫性をもって実行していくことが大切です。
マーケティングは企業やプロダクトを成功に導くだけでなく、「お客様にとって本当に価値あるものを提供し、喜んでもらえる」やりがいのある分野です。ぜひ、今回のフレームワーク紹介を参考にしながら、皆さんのビジネスを次のステージへと導いてください。
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マーケティングは、学び続けることでどんどん面白みが増していきます。ぜひ今回の内容をきっかけに、マーケティング理論を日々の実務や企画に役立ててみてください。まだまだ知りたいことや新しい発見もあると思いますが、まずは本記事で紹介したフレームワークを自分の言葉で整理し、明日から実践してみましょう。あなたのマーケティング活動が一歩前進することを願っています。