顧客視点のターゲティング
はじめに
マーケティングにおいて「ターゲティング(Targeting)」は、商品やサービスをどの顧客層に向けて訴求するかを定める非常に重要なプロセスです。しかしながら、多くの企業は自社の都合や売り上げを優先しがちであり、顧客視点が欠けているケースが少なくありません。ここでは、「顧客視点」に重きを置いたターゲティングについて、マーケティング理論の専門用語を交えながら深堀していきたいと思います。
ターゲティングとは?STPフレームワークの観点から
マーケティング戦略を構築するうえで欠かせないフレームワークに「STP」があります。
- Segmentation(セグメンテーション): 市場を細分化し、それぞれの特徴やニーズに合ったグループ(セグメント)を特定すること
- Targeting(ターゲティング): そのセグメントの中から、どこに集中してアプローチするかを決定すること
- Positioning(ポジショニング): 選んだターゲット層に自社商品・サービスの価値をどのように認知してもらうかを設計すること
ターゲティングは、STPの中心とも言えるプロセスで、セグメンテーションで分けた複数の顧客層の中から、自社の強みをもっとも活かせる・自社の商品価値を最も認めてくれる顧客層を選ぶことです。しかし、ここで重要なのは「企業にとって都合がよいターゲット」は必ずしも「顧客にとって魅力的なターゲット設定」とは限らない点です。顧客が求めるニーズを正しく理解できているかどうかで、ターゲティングの成果は大きく変わります。
顧客視点を取り入れる重要性
顧客視点とは、商品やサービスを利用するエンドユーザーの視点に立ち、その体験や期待を理解し、解決を目指すという考え方です。マーケティングでは「カスタマー・ジャーニー(Customer Journey)」や「ペルソナ(Persona)」を活用し、顧客の行動や心理を詳細に把握することが一般的です。
- カスタマー・ジャーニー (Customer Journey)
- 顧客が商品やサービスを認知してから購入、さらには継続利用に至るまでのプロセスを可視化する手法。
- 顧客がどの段階でどのような感情を持ち、どんな情報やサポートを求めているかを理解するために役立つ。
- ペルソナ (Persona)
- ターゲット顧客を代表する「架空の人物像」を具体的に設定し、その人の性別や年齢、職業、ライフスタイル、価値観などを細かく定義する方法。
- 顧客の特徴を仮定するだけでなく、実際のデータをもとに作成するとより精度が高まる。
このように、顧客視点をしっかりと理解することで、ターゲティングの精度が格段に向上し、単なる「売り手側の都合によるターゲット選定」ではない、本当の意味での「顧客ニーズに応えるアプローチ」を可能にします。
顧客視点のターゲティングを成功に導くポイント
1. 顧客ニーズを深く理解する
- インサイト(Insight): 表面上の属性だけでなく、顧客が抱える課題や潜在的欲求を見つけ出す。
- 定量的データ・定性的データ: アンケートやアクセス解析などの定量的データと、インタビューや観察結果などの定性的データを組み合わせ、顧客理解を深める。
2. 価値提案(Value Proposition)を明確にする
- ターゲットとする顧客層に対して、**「何が」「どのように」「なぜ価値があるのか」**をシンプルに伝える。
- 「差別化(Differentiation)」を明確に打ち出し、顧客にとってのメリットが具体的に感じられるメッセージを構築する。
3. 顧客に寄り添ったコミュニケーション
- **4P(Product, Price, Place, Promotion)**の最適化: 顧客が求める製品仕様や価格設定、販売チャネル、そしてどう情報を届けるかを顧客視点で再考。
- CTA(Call To Action) の最適化: WebサイトやSNS投稿などのクリエイティブにおいて、顧客が行動を起こしやすいタイミングと動機を明確にする。
4. 顧客のライフサイクルを意識する
- 顧客生涯価値(CLV: Customer Lifetime Value): 一度購入して終わりではなく、長期的な関係を築くことを念頭におく。
- ターゲティングをきっかけにした最初の購入だけではなく、継続購入やファン化につなげる施策を組み込む。
顧客視点でのターゲット設定事例
事例1: 健康志向の食品メーカー
- セグメンテーション: ヘルスケアに関心の高い30〜40代の女性、かつ都心部在住の共働き家庭など。
- ターゲティング: 時短かつ栄養バランスを重視する子育て世代の女性をメインターゲットに設定。
- 顧客視点の考慮
- 忙しい毎日の中で「すぐ食べられる」「子どもにも安心」などの顧客ニーズをインサイトとして特定。
- パッケージデザイン、販促チャネル、価格帯は「忙しい中でも手軽に健康を得たい」という思いを汲んだ設計。
事例2: サブスクリプション型動画配信サービス
- セグメンテーション: 映画好き・ドラマ好き・アニメ好きなどジャンルごとの好みや視聴習慣で細分化。
- ターゲティング: 新作映画を早く観たい人、家族みんなで楽しみたい人など、ユーザーの嗜好や利用状況別に細分化した複数ターゲットを設定。
- 顧客視点の考慮
- カスタマー・ジャーニーを活用し、「暇つぶしに利用したいユーザー」や「子ども向けの安全コンテンツを求める親」など多様なニーズを確認。
- レコメンド機能や複数アカウント管理機能を充実させ、ユーザーが「自分向けのサービスがある」と感じられる価値提案を用意。
顧客視点のターゲティングによるメリット
- 顧客満足度の向上: 顧客が本当に欲している価値を提供できるため、ロイヤルティが高まりやすい。
- 競合優位性の獲得: 競合企業がカバーできていない顧客ニーズに先回りして応えることで差別化が図れる。
- リピート購入やファン化促進: 長期的な関係を築き、「継続的な利益」「口コミ効果」「ブランド推奨」などプラスの連鎖が生まれる。
まとめ
ターゲティングは、一見シンプルな「顧客層の選択」に思えますが、顧客視点を取り入れることでその威力は格段に増します。単に「利益を上げやすい」顧客を見極めるだけでなく、顧客が抱える問題や潜在的な欲求を理解し、それに応えるための価値提案を構築することが鍵です。
- STPのうち、特にTargetingは顧客視点を取り入れると大きな効果が期待できる
- ペルソナやカスタマー・ジャーニーを活用し、顧客の行動や感情を把握する
- 価値提案を明確にし、顧客ライフサイクルを意識した継続的な施策を考える
こうしたポイントを押さえれば、ターゲティングの精度が上がり、顧客からも「私のことをわかってくれている」「このブランド・サービスを使いたい」というポジティブな反応を得られるようになります。企業としては売上や利益の向上に繋がるだけでなく、長期的なブランド価値の向上にも大きく寄与するでしょう。
顧客視点のターゲティングを徹底し、自社の提供価値と顧客のニーズが交わる理想的なポイントを見つけ出してみてください。顧客視点の重視が、これからのマーケティング戦略において必須であることは間違いありません。