「(セグメンテーション)を顧客視点で考える」

顧客視点から考えるセグメンテーション:効果的なマーケティング戦略の基盤


現代のマーケティングにおいて「セグメンテーション(Segmentation)」は、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の第一歩となる極めて重要なプロセスです。企業は商品やサービスを売り出す際に「どの顧客に向けて、どのような価値を提供するのか」を明確にする必要があります。しかし、顧客を区切る(セグメント化する)際には、企業側の論理だけでなく顧客自身の視点が欠かせません。本記事では、マーケティング理論におけるセグメンテーションを深堀りしつつ、顧客視点でどのように考え、施策に落とし込むかを体系的に解説していきます。


1. セグメンテーションの基本概念

1-1. セグメンテーションの意義

「セグメンテーション(市場細分化)」とは、潜在顧客を似通ったニーズや特性、行動パターンなどに基づいてグループ分けすることを指します。この工程が重要とされる理由は、企業が“全員に向けたメッセージ”を発信するよりも、各セグメントに最適化されたコミュニケーションを行うほうが効果的だからです。

1-2. 顧客視点のセグメンテーション

従来のセグメンテーションは、企業が保有するデモグラフィック情報(年齢、性別、地域、所得など)やサイコグラフィック情報(価値観、ライフスタイル、興味関心など)を中心に行うケースが多く見られました。しかし、実際に顧客が「どのような動機・課題・目的」で商品やサービスを選択しているかを見落とすと、的外れなコミュニケーションになりかねません。

顧客視点のセグメンテーションとは、**顧客が置かれている状況(コンテクスト)や顧客のジョブ(ジョブ理論における“雇用される理由”)**に着目し、商品・サービスがどのような場面で役立つかを考えるアプローチです。これにより「顧客の“なぜ買うか”」を整理し、より本質的なニーズに基づいた施策が可能になります。


2. STPフレームワークと顧客視点

2-1. STPの概要

STPは、マーケティング戦略を策定する際の代表的なフレームワークで、以下の3つのステップを意味します。

  1. Segmentation(セグメンテーション)
    市場を細分化し、特徴やニーズが類似する顧客群を抽出する
  2. Targeting(ターゲティング)
    どのセグメントを主要ターゲットにするのか選定する
  3. Positioning(ポジショニング)
    競合との差別化を図りつつ、自社の価値を明確に打ち出す

これまでのセグメンテーションは主に企業都合で進められることが多く、機能的な価値や利益率などが判断基準になることが珍しくありませんでした。しかし、顧客がブランドや製品を選ぶ背景には、感情や環境要因など多種多様な要素が含まれます。そこで顧客視点を組み込むことにより、ターゲティングとポジショニングがより精度高く行えるようになるのです。

2-2. 顧客視点でのSTP再構築

顧客視点でセグメンテーションを行う際、まずは顧客の価値観や課題解決意識を深く理解するところから始めましょう。一般的には次のようなステップで進めます。

  1. 顧客インサイトの発見: インタビューやアンケート、SNSでの会話分析、カスタマージャーニーマップの作成などを通じて、顧客が抱える課題や目的を特定する
  2. セグメント候補の抽出: 類似するインサイトや行動を示す顧客群をピックアップする
  3. 主要セグメントの選定(ターゲティング): ビジネスとしての収益性、企業ミッション、競合状況などを考慮しつつ、優先度の高いセグメントを選定する
  4. 差別化戦略の構築(ポジショニング): 選定したセグメントに対して、自社ならではの価値を伝えるメッセージとチャネル戦略を明確にする

3. ペルソナ開発による顧客視点の具体化

3-1. ペルソナ(Persona)とは

ペルソナとは、ターゲットとなる顧客像を架空の人物として詳細に設定したものです。名前や年齢、職業、家族構成、普段の行動パターン、価値観、悩み、目的などを具体的に描写します。これにより、マーケティング施策を考える際に「このペルソナはこの施策に魅力を感じるだろうか?」と自問できるようになり、顧客視点を組織内に浸透させる役割を果たします。

3-2. ペルソナとセグメンテーションの違い

  • セグメンテーション: より広いグループとしての顧客の共通点を抽出し、切り分ける
  • ペルソナ: 抽出したグループの代表的な人物を1人、あるいは数名として物語化・具体化する

セグメンテーションはマーケティング分析上の概念であるのに対し、ペルソナは実際の施策検討時に意思決定をサポートするツールとして活用されます。企業内でペルソナを共有することで、プロダクト開発やプロモーション企画での方向性がぶれにくくなる利点があります。


4. 「ジョブ理論」による顧客ニーズの再定義

4-1. ジョブ理論とは

クレイトン・クリステンセンが提唱した「ジョブ理論(Jobs to be Done Theory)」では、顧客は何かしらの“ジョブ(目的・課題)”を達成するために製品やサービスを“雇用”すると考えます。従来のセグメンテーションでは捉えきれない、顧客がどんな状況で、どんな理由で商品を手に取るのかに着目します。

4-2. ジョブ理論とセグメンテーション

例えば同じ“旅行先のホテル予約”という行動をとる顧客でも、「ラグジュアリーな体験をしたい」「コストを抑えつつ家族連れで快適に過ごしたい」「出張時に利便性が高いホテルを探している」など、求める目的は大きく異なります。ジョブ理論を活かしたセグメンテーションでは、これらの**根本的な目的(ジョブ)**をベースに顧客をグループ化し、施策を最適化していきます。


5. カスタマージャーニーと顧客視点

5-1. カスタマージャーニーとは

カスタマージャーニーは、顧客が商品・サービスを認知してから購入、さらにその後の利用やロイヤルティ形成に至るまでの一連のプロセスを時系列で可視化したものです。このジャーニーを把握すると、どのタイミングで顧客がどのような情報を求め、どんな感情を抱くのかを俯瞰できます。

5-2. セグメンテーションとの関連

セグメンテーションで抽出した各顧客群が、どのようなジャーニーをたどるかを分析することは、顧客視点を取り入れたマーケティング戦略の要です。同じセグメントでも、接触チャネルや接点(タッチポイント)ごとに求める情報や課題は異なる可能性があります。したがって、セグメンテーションだけでなくカスタマージャーニーを組み合わせることで、最適なタイミングで適切な施策を打つことが可能になります。


6. データドリブンなアプローチとパーソナライゼーション

6-1. ビッグデータとセグメンテーション

デジタルマーケティングが普及する中で、顧客の行動や嗜好は多種多様なデータとして蓄積されます。顧客のウェブサイト閲覧履歴、SNSでの反応、ECサイトでの購買履歴、さらにはオフラインの購買データとの紐づけなど、ビッグデータを活用すれば、より精緻なセグメンテーションが可能となります。

6-2. パーソナライゼーションへの期待

AIや機械学習技術の進化により、一人ひとりの顧客に最適化されたコンテンツやオファーを提供する「パーソナライゼーション」が注目を集めています。たとえば、ECサイトでのレコメンド機能や、メールマガジンの配信内容を顧客属性ごとに変える手法などは、セグメンテーションの成果が端的に現れる例です。顧客視点のセグメンテーションによって抽出されたインサイトをベースに、パーソナライズされたコミュニケーションを実施すれば、高い満足度とLTV(顧客生涯価値)の向上が期待できます。


7. セグメンテーションを成功させるポイント

  1. 顧客インタビューとデータ分析の両立
    データだけでは見えない顧客の感情や葛藤、生活環境を定性的に把握するためにインタビューを行い、そこから得られたヒントを定量データと組み合わせることで、より説得力のあるセグメント像が描けます。
  2. 目的に応じたセグメンテーション軸の選定
    商品開発の段階ではジョブ理論の活用が有効な場合が多い一方、広告出稿やメディア選定などチャネル戦略においてはデモグラフィックベースでの切り口が役立つこともあります。目的と施策の段階に応じて最適な軸を選ぶことが大切です。
  3. 常に仮説検証と柔軟な修正を行う
    セグメンテーションは一度作って終わりではありません。顧客の嗜好変化や市場環境の変化に合わせて、定期的に見直しを行う必要があります。とくに競合の参入や新技術の登場など、大きな外部要因があったときは大幅な見直しが求められます。
  4. 組織全体でペルソナ・セグメントを共有
    マーケティング部門だけが顧客視点のセグメンテーションを理解していても不十分です。開発・営業・サポートなど、顧客に接する部門全体が同じペルソナ・セグメント像を共有することで、メッセージの一貫性と顧客満足度が向上します。

まとめ

顧客視点のセグメンテーションは、企業から一方的に“細分化された顧客を見つける”ことを目的とするのではなく、「顧客が望む価値を、本当に届けられるか」という視点で市場を捉え直す行為といえます。STPフレームワークやペルソナ開発、ジョブ理論、カスタマージャーニー分析など、数々のマーケティング理論を総合的に活用することで、より本質的で精度の高いアプローチが可能になります。

データ活用やパーソナライゼーションがますます進むなかで、最終的に勝負を分けるのは「顧客に寄り添った価値を提示できるかどうか」。セグメンテーションの視点を常にアップデートし、顧客理解を深め続けることで、競合優位性を築くと同時に、顧客からの信頼と共感を得られるマーケティング活動を展開していきましょう。